連載企画「修復の美学」

   梶谷宣子さんは世界的な染織品の保存修復研究家。ニューヨークのメトロポリタン美術館で37年間染織品のコンサベーション(保存修復)に携わり、世界各地の染織文化を調査してきました。 退職後は京都に住まいを移し、研究を続けています。

 梶谷さんが扱うのは、紀元前3500年のエジプト王朝前の亜麻の布から現代の新素材繊維まで。古今東西、第一級の染織品を見て、触れて、体の中に落とし込んできました。

 「染織品は生まれた土地や時代によって繊維も染料も違います。材料や技法、どういう状態なのかを見極めて、遺されたものを本来の形に戻すというのが、私の修復に対する考え方。本物がどのようなものかわかれば、どう修復すればよいかは物が教えてくれます」

 舞台裏でアートを支える修復の世界にスポットを当てて、 梶谷さんの染織品への思いや修復の仕事に迫りました。

 連載中にメトロポリタン美術館を案内していただく機会に恵まれ、人間が身近な自然を利用していかに美しい染織品を生み出してきたかをあらためて実感しました。

 

  さらに日本の染織品の修復について、染技連文化財修理所所長の矢野俊昭さんにお話を伺いました。 矢野さんは京友禅の染め職人であり、桃山から江戸時代の小袖の復元にも挑戦してきました。その技術を生かして、現在は能装束や小袖など染織文化財の修復を行っています。

 染織の職人が修復を手がけるのは初めて。

  「日本の文化遺産に触れて仕事ができるのは身震いするほどの喜びがあります。貴重な染織品をベストな状態で後世に残すために、もっと良い方法があるのではないかと常に思っている。毎回その積み重ねです」

  本物の素材感や古の色目を損なわないように、天然の素材や染料にこだわった修復方法は職人ならでは。

 能装束や小袖、袈裟の修復について伺いながら、日本の風土に育まれた染織文化を継承する難しさも考えさせられました。 

 



    (産経新聞文化面2010年10月~2011年3月毎週火曜日連載、写真:  NYPRESS)